ハクメイとミコチ第22話「ジャムと祭り」への慕情

 ハクメイとミコチ原作コミックス4巻第22話の「ジャムと祭り」が一番好きだという話。冒頭の見開き1枚絵に描かれている祭の準備の様子は、どこか静かで内に秘めた興奮を見る人に訴えかけてくる。

 この話の大きな位置付けとしては、あの時点における、ある意味でのオーサライズ回であった。というのも、祭りの参加のきっかけとなる夢品商店のアナグマのスズミ、「長い一日*1」を経て仲良く(?)なった蜂蜜館のメンバー、近隣の飲み屋を営むシナトとミマリ、アラビの市場にあるポートラウンジ小骨のマスターであるマヤ、助演として周りを固めるキャラクターが勢揃いするのである。

 このストーリーをずっと思っていたことが災い(幸い)して、心惑わされた事を少し語りたい。2018年の1月から3月にかけて放送されたハクメイとミコチのアニメは、その映像に特別な派手さはなかったかもしれないが、それはそのまま原作の雰囲気を映し出しながら、一旦の終端を迎えた。非常に心地よい映像化だった。その唯一の心残りが、この「ジャムと祭り」の映像化が叶わなかったことだ。映像化が無かったことへの直接的な言及ではないが、呑戸屋のシナトとミマリが初登場となる「囲炉裏と博打*2」が、Blue-ray BOXの特典新作OVAとして収録される予定*3であることや、ポートラウンジ小骨のマスターのマヤ役である緒方恵美さんのTwitterで、2話以降にマスターの出番が無いと宣言されていた*4ことからも、今回の映像化では「ジャムと祭り」はその構成から漏れてしまったことは、なんとなく推測はできてしまっていた。

 ハクメイとミコチという作品は、様々な個性を持つキャラクターに焦点を当て読む(観る)事ももちろん面白いのではあるが、そのベースにある街の文化に焦点を当て読むことで、更にその興味を引き立てることになると思っている。例えば、アラビが舞台となっている「舟歌の市場*5」と「貝の音*6」は非常にわかりやすい。何がなくとも、あの目を引く積み木市場が好きだという人も多いだろう。それに加えて、この2つのストーリーは積み木市場が長い年月をかけて醸成してきたと思われる文化を如実に描いている。どちらも非常に魅力的な話なので、また別途色々書きたいことがある。


 話をジャムと祭りに戻す。この話の起点ではミコチの料理に対するこだわりが強く印象付けられる。祭りの開催前日に代打を依頼されたミコチは、準備がままならない状態のまま、満足のいく商品が用意できない状態を嫌い、自身では代理出店を断る(ただし結局最後にはハクメイとアナグマの圧によって出店を決断させられてしまうのでは有るが)。この状況からもわかるように、ミコチはこの祭りに対して新参であるし、そもそもマキナタ出身ではない二人にとっても、マキナタ自体に対して新参なのだろう。

 参加が決定した次の作業は材料の仕入れである。ここではミコチの真っ直ぐな性格がこれでもかと描かれている。場面変わって蜂蜜館の八百屋のシーンの1コマ目『だめだ』に対する、ミコチの「なんで」、の時点でもう十中八九結論は決まってしまっている。ミキの少したじろいだ状態の『だめだ』、は語調こそ強いものの、ミコチの頑然とした「なんで」にどう考えても惨敗している。なんやかんやで木苺以外に今回欠かせない材料となるバジルをちゃっかり頂いた上で、今後の商品卸しの契約まで結んでしまうミコチのやり手には目を見張る。その様子からは、ミキが今後ミコチの手のひらの上でころころと転がされている姿を容易に想像することができる。

 祭りの序盤は結局時間を持て余す(後にそれは祭りの構成ゆえの状態であることがわかるのだが)中で、先述したとおりに面々が会いに来る。ここがまた楽しさを際立たせて、静かな盛り上がりを支えている。呑戸屋の2人はある意味祭りの先輩であり、飲食店を営んでいることもあり様子を伺うように現れる。そして次に現れる蜂蜜館の古参連中。長い一日を経て、すっかり顔なじみになっているようだった。去り際のミマリの言葉も、この時点では意味をわかっていない。そして「屋台祭り」が始まる。ここからはもう祭が終わるまでにその勢いにまかせて、ノンストップで物語が進行する。笑いながら手伝いにくるマヤを始めとして、呑戸屋とは鉄板と小麦粉のトレード、また具体的なセリフにはなっていないものの、蜂蜜感のメンバーになにか紙袋でやりとししているようなコマも見られる。想像するに、砂糖か何かが途中で足りなくなったのだろうか。

そしてこの話の最後は、1ページ2コマという単純な構成ではあるのだが、ただし大変見事なコマ割りの妙によって、2人の中での祭が終わったところで締められる。ここは是非、コミックスを見てもらいたい。


最後におまけを一つ。そもそもミコチがこの祭に個人として出店する事になったのは、あるお店の料理長が寝込んでしまったための代理をであった。その店名は「からしや」という。これはスズミがからしやさんと呼びかけていたことからわかる。これは「休みの日*7」に出てくる芥子公園のそばにあるトーニ地方料理のお店のことであると考えられる。その時の店員と、今回スズミと話しているのもオコジョに見えるし、お店の名前と(今はなき)公園の名前も一致する。そういえば激辛チリポテトやマスタードのピクルスといった"からい"メニューもその事を裏付けられるのではなかろうか。*8 ちなみに「休みの日」でイワシと出かけた先であいにく定休日であった、蕎麦の老舗「香り梅」も今回の祭りに出店しているようだ。ジャムと祭りの1ページ目の見開きを見るとその屋号ののぼりがたっているのがわかる。

*1:原作コミックス3巻第15話、アニメ版#08

*2:原作コミックス1巻第8話、特典OVA

*3:TVアニメ「ハクメイとミコチ」公式サイト、Blu-ray&DVD、http://hakumiko.com/package.html

*4:Twitter、@Megumi_Ogata、https://twitter.com/Megumi_Ogata/status/955029605227757568

*5:原作コミックス1巻第6話、アニメ版#01

*6:原作コミックス6話第37話、未アニメ化

*7:原作コミックス3巻17話、アニメ版#06

*8:未確定情報

宝石の国朗読コンサートを見てきた

 運良く昼夜ともチケットが取れたので両方参加してきた。 昼公演はなんとも言えない遠さがあったので、全体というか視線は映像メインで見ていた。 夜公演は一桁列目の中央ブロックで非常に良い席だったので、キャストの方やその後ろの楽器隊の皆さんをガン見していた。

 物販のパンフレットでボルツ役の佐倉綾音さんのページに書いてあった 「噛み合わないけれど離れなれないふたりの依存関係には憧れを感じます。」というにはもはや同意しか無い。 まさに「交わることのない共依存関係」が本当にどぎつく心地よい。 こと8巻以降にその状況がつぶさに描かれる。漫画やBlue-rayは揃えつつも連載誌のアフタヌーンには手が出ていなかったところではあったが、 このイベントを機にアフタヌーンを買うようになった。

 昼公演は準備に時間が掛かったのだろうか、入場が中々始まらずに実際に始まったのは予定されていた開始時間を10分程度過ぎてからだった。 そのためか、体感としては会場に入って席についてから、公演が始まるまで3分くらいの感覚だったので、 正直なところ、席が後ろの方だったということもあって世界に入り込むのに苦戦した。 思えば、こういったイベントでは、入場してから開始まで席についてゆったりとした時間を過ごすというものは、 俗世から旅立つ助走という意味で大切な時間なのかもしれない。 大抵イベントの開場時間をまつ時は、スマホをいじって Twitter かなにかを見ていることが多い。 そんな日常的な心持ちのまますぐにイベントに集中できるかと言われると、難しい気がしてきた。

 そして始まった昼公演の席は後ろから3列目であり、キャストの表情がなんとなく認識できるかできないかというくらいの場所だった。 これまた、オーケストラは更に後ろに陣取っているためあまり見えず、その演奏の完成度と相まって、自分の耳にとってはこれ本当に生で演奏しているの…か…? というレベルだった。

 自分が引き当てた席次的には、夜公演が本番だった。 キャストの方々は、自分のキャラクターが登場するシーンの少し前のタイミングで、 暗闇のなか舞台袖からマイク前に移動するようだった。 フォスフォフィライト役の黒沢ともよさんは、その暗闇のある意味移動中においても、 その時のフォスフォフィライトの心情を投影していた歩き方をしていた。 物語の始まりの、「根拠なく明るい予感に甘えられた頃」には、胸を張って移動し、 後半の特にアンタークチサイトとのやり取りの時にはどこか物憂げでな様であった。 これはある程度の近くの席でないと見ないとわからなかった。

 朗読、映像、生演奏と、3つの大きな要素から構成されているこの講演は、 すすむにつれて結局どこを注視すればよいのかわからなくなってくる。 キャストの声や所作にその視線が釘付けになると、舞台の上部にあるスクリーンに映し出されている映像にはどうしても目がいかなくなる。 ただ、アニメ宝石の国はあの映像があってこそと思うと、映像とその朗読の組み合わせを楽しむのが正解と言える。 演奏も一緒で、生演奏というのは非常に貴重な経験なのでそこもよく見たい。 上で、収録なのか生演奏なのか分からないくらいのものだと書いたけれど、 よく聴くとやはり差異はわかる。月人が攻めてくる時の曲の高音が非常に尖っていて、 迫力が増大されていた。

 アンタークチサイト役の伊瀬茉莉也さんはメイドインアビスで心を掴まれ、宝石の国でも同様にハマった。 この写真とか座り方とかピースサインとか角度とか衣装とか色々相まってスケバンぽくてかっこよくないですか。